フレッシュマンの頃:その2

外科に入局したフレッシュマンは過酷と聞いていましたが、これほどとは思いませんでした。いよいよ1991年7月より二番目のラウンドです。本4東:C班という消化器外科の部署です。実質の班長はチェリーさんと呼ばれていた櫻井俊宏先生です。先輩たちから最も怖いと恐れられた先輩です。次のラウンドがC班と決まり、しかもフレッシュマンは自分ただ一人と聞いて相当ビビッていました。ラウンドが開始してからは毎日緊張の連続です。ナースは最初に入院中の患者さんの状態が変化したときは、フレッシュマンに指示を求めます。この時期じゃ、きちんと診れてるとは思わないけどね!!ちょうどこのころフレッシュマンの間では、例えば、患者さんの血圧が高くなったらアダラート舌下(今はしません)、発熱時はヴェノピリン点滴(そんな薬剤もうないなー)、尿量が減少したらラシックス側注(本当かい??輸液だろ!!)などなどがお決まりの常套句でした。ある日の夜中、ポケベルが鳴り、胃がんの術後の患者さんが尿量が低下したのでどうしましょうと、ナースが指示を求めてきました。このとき小生は当然のことながら上述の指示を出しました。「ラシックス1A側注」と。翌日の朝カンファレンス中、櫻井先生が温度板を見た直後、「花房あーー!なんでラシックスなんか投与したんだー」と思いっきり怒鳴られ、その後30分くらい叱責されまくりました。成人になってこんなに怒られたことなどもちろんなく、思わず、「えーん」とではないけど、さめざめと泣いてしまいました。その後レポートまで提出させられる始末で、本当に辟易してしまいました。術後の乏尿はhypovolemiaが最も疑うべき病態で、CVP測定や尿比重測定、皮膚や舌の湿潤など、きちんと患者さんを観察して指示を出すことの重要性をこの時に叩きこまれました。また、アッペ(急性虫垂炎)の初切り(初めての手術執刀)では、腹膜切開後、腫大した虫垂を引き出すところで手が止まると、いきなりペアンで頭を思いっきりぶっ叩かれました、「手術書をきちんと見ないで手術に臨むな、患者さんで手術の練習をするな」とやはり長時間の説教を受けてしまいました。当然のことです。自分が指導者であれば同じことを言うでしょう。櫻井先生は胃全摘や膵頭十二指腸切除術など消化器手術の技量も卓越しており、小生が医師として最も影響を受けたた4名のうちの一人です。これらの教訓は今でも小生の心に刻まれています。「チェリーさんは今は元気なのかなー」と思う今日この頃です。

Copyright © 2024 花房院長のブログ All Rights Reserved.